親知らずとは
当院では、口腔外科領域において多くの経験を持つ歯科医師が「親知らず」の診断・治療を行っています。親知らず(第三大臼歯)は、人類の進化とともに顎が小さくなる中で、正常に生えるスペースを失い、様々なトラブルの火種となることが多い歯です。 「抜くべきか、残すべきか」の判断には、精密な画像診断と将来的なリスク評価が不可欠です。安易に判断せず、口腔全体の健康維持を目的とした最適な治療計画をご提案します。

1. 親知らずの基礎知識とメカニズム
親知らずは、永久歯の中で最も遅く、概ね10代後半から20代半ばにかけて顎の最も奥に萌出(ほうしゅつ)します。 現代人は食生活の変化により顎骨が退化・縮小傾向にあるため、4本すべての親知らずが真っ直ぐ綺麗に生え揃うケースは稀です。多くの場合、斜めに生えたり、歯茎の下や骨の中に埋まったままになったりする「埋伏智歯(まいふくちし)」の状態となり、これが隣接する歯や歯肉に悪影響を及ぼす主原因となります。
2. 放置することで起こりうる「6つのリスク」
親知らずが不適切な位置にある場合、痛みがないからといって放置することは推奨されません。以下のような深刻なトラブルを招く可能性があるからです。
- 智歯周囲炎(ちししゅういえん): 親知らず周辺は歯ブラシが届きにくく、不衛生になりがちです。歯肉の隙間に汚れが溜まり、疲労やストレスで免疫力が低下したタイミングで急激に腫れや痛み、膿が出るといった急性炎症を引き起こします。
- 隣接歯(第二大臼歯)の虫歯・歯周病: 手前の健康な奥歯との間に深い隙間を作り、そこが虫歯になります。最悪の場合、親知らずだけでなく、手前の重要な奥歯まで抜歯せざるを得なくなることがあります。
- 歯列不正(歯並びへの悪影響): 親知らずが横向きに生え、手前の歯をグイグイと押す力(萌出力)が加わることで、ドミノ倒しのように前歯の歯並びが乱れる「叢生(そうせい)」の原因となることがあります。
- 歯根吸収(しこんきゅうしゅう): 親知らずが手前の歯の根っこに食い込むように成長し、健康な歯の根を溶かしてしまう現象です。
- 嚢胞(のうほう)の形成: 骨の中に埋まっている親知らずの周りに袋状の病変(含歯性嚢胞)ができ、顎の骨を溶かしていく病気です。発見が遅れると大掛かりな手術が必要になります。
- 顎関節症の誘発: 噛み合わせのバランスを崩し、顎の関節や筋肉に負担をかける原因となることがあります。
3. 精密診断:3次元CTによる「可視化」
親知らずの根の先は、下顎の中を通る太い神経(下歯槽神経)や血管に非常に近い位置にあることが多々あります。 従来のレントゲン(2次元)だけでは、神経との距離や根の複雑な湾曲を正確に把握しきれない場合があります。 当院では、難症例においては必ず「歯科用CT」による3次元撮影を行います。神経や血管の位置関係をミリ単位で立体的に把握することで、神経麻痺などの偶発症リスクを極限まで低減させた、安全性の高い抜歯計画を立案します。
4. 抜歯の難易度と治療アプローチ
親知らずの抜歯は、生え方によって難易度や手術時間が大きく異なります。

- 難易度【低】真っ直ぐ生えているケース 通常の抜歯と同様、比較的短時間(数分〜10分程度)で完了します。術後の腫れや痛みも軽度で済むことが多いです。
- 難易度【中】横向き・半埋伏のケース(水平埋伏智歯) 歯茎を切開し、引っかかっている歯の頭の部分を分割して取り除きます。多少の骨の切削が必要になることがあり、術後に数日間の腫れが予想されます。
- 難易度【高】骨の中に完全に埋まっているケース(完全埋伏智歯) 歯が骨の深部に位置している場合、周囲の骨を削り、歯を細かく分割して摘出する高度な外科処置が必要です。神経に近い場合は、大学病院レベルの慎重な操作が求められます。当院では静脈内鎮静法などを併用し、患者様の苦痛を和らげる措置も可能です。
5. 抜歯後の経過と注意点(ドライソケット対策)
抜歯後のトラブルとして最も注意すべきなのが「ドライソケット」です。 通常、抜歯した穴(抜歯窩)には血餅(けっぺい)という血の塊ができ、それがカサブタとなって治癒に向かいます。しかし、強いうがいや喫煙、舌で触るなどの刺激によって血餅が剥がれてしまうと、骨が露出し、激しい痛みが続くドライソケットになります。
- 当日の過ごし方: 激しい運動、長時間の入浴、飲酒は血行を良くし出血の原因となるため控えてください。
- うがいについて: 当日は口をゆすぎすぎないことが重要です。血の味が気になっても、軽く吐き出す程度に留めてください。
- 腫れのピーク: 処置内容によりますが、術後48時間(2日目)くらいが腫れのピークとなり、その後1週間程度で徐々に引いていきます。
6. よくあるご質問(FAQ)
- Q. 痛みに弱く、抜歯が怖いです。 A. 当院では、表面麻酔の使用や極細の針による痛くない麻酔に加え、恐怖心が強い方には、半分眠ったようなリラックス状態で手術を受けられる「静脈内鎮静法」もご提案可能です。
- Q. 親知らずを移植できると聞いたのですが? A. はい、条件が合えば可能です(自家歯牙移植)。他の奥歯を虫歯などで失った際、健康な親知らずがあれば、それを移植して噛む機能を回復できる場合があります。そのため、無暗に抜かず「ドナー歯」として温存する選択肢も含めて診断します。
- Q. 仕事が忙しく、腫れると困ります。 A. 腫れの程度は個人差が大きいですが、骨を削る量に比例する傾向があります。CT診断の時点で、どの程度腫れるリスクがあるか予測をお伝えしますので、重要な会議や出張のスケジュールを避けて抜歯日を設定することをお勧めします。
当院では、一時的な痛みを取り除くだけでなく、将来のお口の健康を見据えた「親知らず治療」を提供しています。違和感がある方は、痛くなる前に一度ご相談ください。